疏水(農業用水)とは何か?

疏水とは、潅漑や舟運のために、新たに土地を切り開いて水路を設け、通水させることをいいます。農民たちが二千年にわたって築き上げてきた疏水の総延長は、国内だけで約40万kmという途方もない長さ。実に地球10周分に相当する距離となります。これらの疏水は、古くから集落の共同作業によって維持管理され、食糧生産のみならず、国土や生態系の保全など様々な役割を担ってきました。しかし近年、農村の高齢化や過疎化、食生活の変化にともなう米消費の低下などによって、疏水は大きな曲がり角を迎えてます。

疏水で形成されてきた日本

アジアモンスーン地帯に位置し、国土の約7割が急峻な山という平地の少ない日本。2千数百年前、ここに稲作が伝播し、急激に全土に広がりました。それから稲作を中心とする国土づくりが始まり、近年まで稲作が社会の基本ともいえる時代が続きました。稲作は水田で行われるため大量の水を必要とします。疏水とは、その大量の水を水田へ送るため、川から水路を引き、水を分け合うことをいいます。水田に水を引く水路は次第に長くなり、網の目のように張り巡らされ、城下町へ、そして都市へと大きく成長してきました。したがって、日本の都市のほとんどが水田社会、つまり稲作のための疏水によって発展してきたといえます。

安積疏水(福島県) 疏水名鑑の1つ

明治15年10⽉、猪苗代湖からの導⽔によって安積原野の開墾が⾏われ、この地の農業・⼯業は⾶躍的に発展しました。この⼀ 本の疏⽔により、郡⼭は⼈⼝7000⼈の町から約30万⼈の⼤都市に⽣まれ変わったのです。 ⽇本にはこうした疏⽔によって⼤きな発展を遂げた都市が多数あります。

地球10周分の水路網

⽇本には約3万5千本の川が存在します。その流域のほとんどで、⽔争いを通して、何百年とかけた複雑かつ緻密な⽔秩序が形成されてきました。 ⽇本の農⺠は⼭に⽊を植え続けて川の⽔を枯れないようにするとともに、同じ川から何本もの⻑い⽔路を引き、平野の隅々にいたるま でまるで網の⽬のように敷きつめました。 平野は国⼟のわずか30数%。その狭い平野に敷きつめられた⽔路の総延⻑は約40万km。実に、地球10周分という想像もつかない⻑さ の⽔路が、⼈体の⽑細⾎管さながらに平野に張りめぐらされ、⽇本の国⼟は“⽣きた⼟地”たりえているのです。 その⽔路の⽔は、⽔⽥を潤したあと川に戻され、さらに下流で再び取⽔されるということを繰り返しながら、地上にできるだけ⻑くと どまるような仕組みが形成されてきたのです。

疏水のイメージ地図

疏⽔はよほど⼤きなものでもない限り地図に記されることはありませんが、あえて書くと上図のようになります。(⽔⾊の線 が疏⽔)現在はポンプを使ったりして、丘の上にも⽔路を引くことができるようになりましたが、昔は⽔の位置エネルギーだ けで川から⽔路を引いてきたわけですから、かなり⾼度な⼟⽊技術が必要だったわけです。