新・田舎人28号

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新・田舎人インタビュー
暮らしのそばに農村景観を維持する。これが日本の伝統ではないでしょうか。

高畑 勲さん(アニメーション映画監督)

今回は日本を代表するアニメーション映画監督の高畑勲さんに農村・自然についてご意見をうかがった。高畑監督は「おもひでぽろぽろ」で農業者・農村へ熱い共感を示されるとともに、「平成狸合戦ぽんぽこ」では、農村地域の都市化(住宅地化)をテーマに、自然と人間の開発行為のあり方に一石を投じ、文化映画「柳川堀割物語」では先祖の知恵を掘り起こすなど、農業や農村に強い関心をもたれている。

※文中敬称略

写真:高畑勲氏 高畑 勲(たかはた いさお)さん
1935年、三重県伊勢市に生まれる。プロデュ―サーとして宮崎駿監督とコンビを組んだ「風の谷のナウシカ」が大ヒット。高畑・宮崎両監督を中心に劇場用アニメーション映画制作のため設立された"スタジオジブリ"を活動の舞台とする。「火垂るの墓」「おもひでぽろぽろ」「平成狸合戦ぽんぽこ」などの脚本・監督を務め、「映画をつくりながら考えた事」「木を植えた男を読む」「十二世紀のアニメーション」などの著書がある。

―監督と農村の接点からおうかがいしたいのですが。

高畑/ぼくは装備なんかして出向いていく「大自然」ではなくて、里山というか、農村的風景が大好きですし、関心も持ってきたんです。作品で取り上げたのもみんなそういうところです。
日本という国は、どこの地方都市へ行っても、山が見え、川が流れ、ちょっと足をのばすと田んぼがあって、それが当たり前の風景ですね。
要するに、ふつうの日本の都市環境は、都市と農村が入り組むように接していて、都市に住んでいても農村的な景観や四季の変化を日常の暮らしの中で楽しむことができた。蛙の声を聞いたりあぜ道を歩いたり土手の桜を見に行ったり。都市の人間も公園ではなくて農村を楽しんでいたんですね。日々の暮らしの近いところに農村景観があったことが、市民にうるおいを与えていたんだと思います。

―しかし、そういう農村もずいぶん変わってきましたね。

高畑/そう、それがかえってアダとなって、スプロール化がすぐ起こり、雑然たる風景になってしまう。いわゆる「農村らしい」ところが少なくなってきた。それが都市近郊だけじゃなくて、農村自体がそうなりつつある。勝手だとは承知していますが、そういう農村的 環境の恩恵に浴してきたものからすると、まことに「情けない」現状ですね。
たしかに里山の景観は、それを持続してくれる営農者がいてくれなければならない。それがいなくなって売るのかもしれません。でも、自治体が買い上げさえすれば、都会の近くだと、かえって可能性はあるんじゃないかと思うんです。人口が多く、農村出身者もいるし、市民農園などやりたい人は増えていると聞きます。変に人工的な公園や雑然たる市民農園ではなくて、暮らしのそばに農村景観を維持する。これは日本の伝統ではないでしょうか。
「勝手なことをいうな、それは訪問者の意見だろう」と叱られるかもしれないけれど、農村地域に住んでいる人たちにとっても、地域の心地よさというのは大事なはずです。しかも農村の方々はみんなクルマを持っていますよね。都市空間を享受するのはむずかしくない。簡単に都市へ行けるわけですから。とするなら、都市は都市、農村は農村としての特色をはっきり打ち出し、その上で行き来してお互いにないものをえる、そうしたほうがずっといい。
最近よく聞かれるサステイナブルですか、「持続可能な」ということでいえば、日本では、ずっと循環型の自然との付き合いをしてきたんですね。たとえば下肥の利用というのもスゴイです。見事なリサイクルです。里山もそうです。雑木林の循環的利用ですね。水田もそうです。連作障害なんてものがない。とにかく、自然を殺したら元も子もないことをよくわきまえていたんです。自然の恩恵をこうむり続けるためには、自然に働きかけて元気よく生き続けてもらわなければならない。自然の再生産力を活かすしかない。
『おもひでぽろぽろ』という作品で、農村青年に「この景色は人間がつくったんだ。いわば自然と人間の共同作業でできあがったものなんだ」と言わせたのもそこなんです。
人間にとっていちばん親しみやすくなつかしい風景、それが長い間かかってできあがった農村景観なのは、じつは当然なんですね。人間が住んでいるのに風景があまり大きくは変化しないで何百年と続いているということは、すなわち「持続可能な」ものだったということですよ。日本人が昔からやってきた農業こそが持続可能な農業です。
日本は気候も比較すれば世界で恵まれている方だし、こういうことに自信と勇気をもって、祖先の知恵を活かしながら現代にアレンジしていけば、けっして未来は暗くないと思うんですが。

(この記事は「新・田舎人」28号のインタビューを抜粋したものです。)


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