新・田舎人27号

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新・田舎人インタビュー
日本社会の選択肢の一つとなる農村づくりを

生源寺 真一さん(東京大学教授)

昨年12月、21世紀の農村の基本イメージ『明日のふるさと21』が発表された。その懇談会の座長をつとめられた生源寺先生に、農業・農村をとりまく環境の変化、新・基本法、提言についてご意見をうかがった。

※文中敬称略

生源寺真一氏 生源寺 真一さん(しょうげんじ しんいち)
1951年、愛知県生まれ。東京大学農学部農業経済学科卒業後、農林水産省農事試験場研究員などを経て、東京大学農学部助教授となる。現在、東京大学大学院農学生命科学研究科教授。農学博士。「21世紀における農村地域の将来像に関する懇談会」座長をつとめる。著書は「農政大改革」(家の光協会)など多数にのぼる。

―旧来の『農業基本法』と99年の『食料・農業・農村基本法』のちがいはどこにあるのでしょうか?

生源寺/旧法はもっぱら農業のための法律だったと思います。新しい基本法は、農業のためでもありますが、それと並んで“食料”と“農村”の二つが重要なテーマとして加わりました。その意味で国民全体のための基本法というとら捉え方ができます。
もう一つの特徴は、新・基本法は、食料・農業・農村の側からこれからの社会・経済のあるべき姿を提案する位置にある、と私は思います。一つの転換点を創り出すための基本法といえるでしょう。

―具体的な目新しさは?

生源寺/農村整備に対する考え方です。農村はもう農家だけの居住空間ではなくなっています、混住化ですね。したがって農村の整備は、必ずしも農家のためだけではなくなってきた。農家・非農家を含んだ地域住民のための農村環境整備。これが新しい視点ですね。
もう一点、政策用語で農村の“多面的機能”といいますが、これをあらためて法律に書き込んだ点が重要だと思います。

―農家と非農家を対象とする農村整備は、従来にも増して微妙で難しい事業運営を迫られますね。

生源寺/私は農業の生産性や所得を向上させる、狭い意味での農業政策は主として専業農家に集中していいと思います。しかし、農村政策についてはもっと幅を広げ、懐を深くして、専業農家だけではなく兼業農家、非農家を射程に入れた政策をとることが必要です。農業政策を農村政策が包み込む二重構造になっていくのではないでしょうか。

―新・基本法のうえに、『明日のふるさと21』をまとめられたわけですが、その特徴をお聞かせください

生源寺/まず農村がもつ豊富な『自然』の意義をもう一度考えてみましょう、ということです。農村は、子どもたちにとっては情操面を含んだ豊かな教育の場でしょうし、大人にとっては新しいライフスタイルのなかで自然に親しむ場となります。これからの暮らしを考えた場合、農村の自然がもつ意義は想像以上に大きくなっていくのではないでしょうか。
もう一つは『都市と農村の交流』です。一方的に農村から都市へ人が流れるのではなく、逆の流れがこれからどんどん出てくるだろうと思います。都市と農村の住民がお互いをよく理解しているような日本社会、これが農村像の一つのポイントになっています。
『イノベーション(革新)』と『コンサベーション(保全)』、両方の要素をあわせもった地域社会をつくってみようじゃないか、ということもあります。これは地域社会のなかの若者的な部分と、成熟した中・高年的な部分の共存ともいえるでしょう。イノベーションの要素には外部からの刺激や人を受け入れる、ということも非常に大事になってきます。
いずれにせよこれからの農村は巧みにつくりあげたモザイクのようになっていくのでしょうね。単一のカラーに染めあげるような農村整備、地域づくりに比べると、はるかに難しい。それだけにヤリガイがある仕事だと思います。

―先生は農業経済がご専門ですが、経済学からみた農村の価値は?

生源寺/一つは食料を生み出すという価値、これは人間にとって欠くことのできない根本的なニーズに対応する価値ですね。と同時にもう一つの価値は、欲求の段階でいえばいちばん高いレベル、人間の自己実現の欲求に対応する価値が見出されるのも農村です。
これからは、かつてのような高度経済成長は望めません。経済としては低成長、むしろ同じ状態がくり返される定常状態に近いものとなるかもしれません。そうすると経済としては定常状態でありながら、個人としては一生を通じて成長していく、年齢に応じて達成感を得られるような何かを求めざるを得ない。新しいライフステージ、ライフスタイルをそれぞれに考えていく時代がきているのではないでしょうか。農村は、そうした自己実現のうえできわめて重要な役割をはたすのではないでしょうか。

農村の将来像を提言した『明日のふるさと21』は農林水産省のホームページ上「審議会等/農村振興局/21世紀における農村地域の将来像に関する懇談会」で公開されています。
農林水産省ホームページ http://www.maff.go.jp

(この記事は「新・田舎人」27号のインタビューを抜粋したものです。)


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