新・田舎人21号

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新・田舎人

食料・環境・ふるさとを考える地球人会議
『全国ネットワーク設立記念フォーラム』から

6月5日、東京の銀座セゾン劇場において『食料・環境・ふるさとを考える地球人会議全国ネットワーク設立記念フォーラム』が開催され、全国から約700名の参加を得ました。同フォーラムでは、川勝平太・国際日本文化研究センター教授の「美しく住みよい田園空間の創造」と題した基調講演が行なわれました。
川勝教授の講演は、江戸時代に日本を訪れた数々の外国人がまるで“エデンの園”のようなこの国の美しさ・心の豊かさに驚いてヨーロッパに報告し大きなショックを与えたこと、やがてそれが「ガーデン・シティ」という国づくりの理想になったことなどを数多くの事例をあげて紹介。当時の日本が「最高度に完成した文明」と称された国であったにもかかわらず、明治以降、「富国強兵」路線をもって近代化とした歴史的皮肉とあわせて、農村の危機を近代日本の危機として明快に指摘、今後の日本のあり方として「ガーデン・アイランズ」の理念を力強く提唱され、会場全体が凛とした熱気に包まれました。
続くパネル・ディスカッションでは、各氏が熱論を展開、「地球人会議」フォーラムの名にふさわしく農村から自然環境まで含めて新しい国のあり方を示唆する質の高いものとなりました。以下、その討論の要約をご紹介します。

※文中敬称略

パネリスト

川勝平太氏 小山邦武氏 アン・マクドナルド氏 ダニエル・カール氏 森田昌史氏
国際日本文化研究センター教授
川勝平太氏
飯山市長
小山邦武氏
(長野県地球人会議会長)
宮城県立大学講師
アン・マクドナルド氏
(作家)
タレント
ダニエル・カール氏
(山形弁研究家)
農林水産省構造改善局次長
森田昌史氏

コーディネーター

福島敦子氏 キャスター
福島敦子氏
(エッセイスト)

世界観光ランキングというデータがあるのですが、日本は30位以下。

福島:経済大国であるにもかかわらず、今ひとつその豊かさを実感できていないというのが私達の率直な思いです。本日のテーマである「美しく住みよい田園空間の創造」は、これから私達が豊かな生活を送るためのキーワードのひとつではないかという気がします。農村の活性化、都市と農村の共存といった視野から、21世紀に向けての心豊かな生活への方向性を探ってまいりたいと思います。まず最初に、日本全体の景観についてですが、川勝さんはどのような印象をお持ちでしょうか。

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:具合が悪いと思っています。世界観光ランキングという人気コンテストのようなデータがあるのですが、日本は残念ながら30位以下。政治が不安な国とか施設の貧しい国と同じランクです。一方で、日本人は年間1700万人も海外に旅行している。しかも、観光の行き先はパリ、ロンドンといった都市よりもプロバンスや湖水地方のようないわゆる田舎、生活の景観そのものが良いところへとシフトしている。もう、すべてお金に換算してしまう富の定義を変えなくてはいけない時代になっていると思います。

福島:アメリカがご出身のダニエルさんは日本の景観についてどのような印象を。

ダニエル:日本で初めて住んだ土地が奈良県の五條市。のどかな町です。佐渡島にも半年、山形に3年。地方の良さをたっぷり味わいました。その後、東京サ来たら、わー、なんだ、こりゃ別の国だ(笑)。日本には都会と田舎、2つの国があってその中間がない。ちょっと極端というか、ミキシングの仕方に問題があるのではないかと思いますね。

福島:アンさんはカナダのご出身ですけど、いかがですか。

アン:私は仕事柄、北海道から沖縄まで訪れていない県はないのですが、実感として言えることは、この国には地球の生態系の全部がちょこまかと、お弁当箱のようにつめ込まれている。カナダは面積では日本の24倍ですが、自然の多様性でははるかに日本の方が豊かです。ただ、その生態系も、最近ちょっと風邪気味ではないかという感じですね。

福島:小山さん、地元も含めて日本の景観をどういうふうに見ていらっしゃいますか。

小山:川勝先生のご講演で昔の外国人が日本の美しさに驚いたというお話しがあったのですが、今でもやはり、私どものところへ外国の方々がおいでになると、こんな美しい農村景観は世界でもあまりないとおっしゃるんです。日本の都会の方も同じことを感じているらしい。どうも、自分達は素敵なところに住んでいるんだという自信、それを守ってゆくという姿勢が必要なんじゃないかと思います。


農業は得がたい貴重な教室なのに、それを捨てて受験勉強。
日本にとって危険です。

福島:日本の農村ならではの良さというのは、外国の方々から見ていかがですか。

ダニエル:子供を放し飼いできる(笑)。ウチの子は山形生まれで東京育ち。東京にいると警戒心が強くて用心深い。それが米沢行くと性格が変わる。平気で道路の真中で遊んでいる。まだ7歳ですけど、本能的に安心できるものを感じてんだな。

アン:でも、私は田植えとか稲刈りを8年間やらせてもらってるんですけど、田植えの風景に子供の姿を見かけないんです。農業というのは本当に得がたい貴重な教室であるはずなのに、それを捨てて受験勉強しなければならない。日本にとってちょっと危険ですね。

福島:最近、教育も景観も、全国どこもかも画一化されていきつつあるような気がします。もっとそれぞれの土地の良さを認識して、その財産を生かした景観づくりや教育に取り組んでいく姿勢が大切なように思われますが、いかがでしょうか。

川勝:まったく賛成です。かつて外国人が米沢のことをエデンの園だと賛嘆した。しかし、地元の人は誰も知らない。誰も長いこと地元の良さに気づかなかったので、子供達も知らない。都会と農村の子供が交流することによって、お互いの違いに気づく。その違うところに誇りというものが形成される。知らないままでいると宝の持ち腐れになってしまう。

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福島:逆に、農村に行きますと、畑の真中に巨大で奇抜なデザインの建物が建っていたりもします。

小山:地域づくりで一番大切なのはそこだと思います。アンさんがお弁当箱と言われましたが、同じ信州でも谷をひとつ越しただけで言葉、風土も違う。それほど多様であった地域社会が急激に画一化されてきた。これはやはり自分達の地域の良さに気づいていないせいです。誇りが持てなくて独自のものを生み出すことはできない。


今、一番危機感を感じているのは、集落の崩壊ということです。

福島:国民の農村への関心度を示すデータがあるそうですね。
森田:これは『21世紀の食料・環境・ふるさとを考える委員会』で実施されたアンケート調査(平成11年3月)からですが、「農業・農村の自然環境の保全に対する役割」という項目では、「非常に重要」「重要と考えている」という方が合わせて97%。

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次に「農業・農村の伝統的な景観や文化の保全に対する役割」では、「非常に重要」「重要」が合わせて91%。「農村の風景」については、「お金がかかっても懐かしい風景を復元すべき」が27%、「価値あるものは復元し、今ある美しい景観を残すべき」という方が55%で、合計82%の人がふるさとの原風景を残していくべきだと考えておられます。さらに「棚田は今後どうすべきか」という項目では、「景観や環境保全の観点から、価値あるものについては行政も含めて維持・保全すべき」という意見が86%。国民の農業・農村への見方というのは大きく変わりつつあるという感じを強く持っております。

川勝:驚きですね。9割近い人達が、農業・農村を単に生産基盤としてではなく、国土の保全や景観、自分達の財産だという意識を持っている。この数字の持つ意味は重いですよ。

ダニエル:私の育ったカリフォルニア南部では、雨が降るとすぐ全部の水が川に流れ込んで、物凄い勢いで海に流れていくんです。あんな砂漠っぽいところで、洪水対策をやるしかない。棚田みたいなものがあればカリフォルニアの水源は随分良くなるはずです。こういうところは日本を見習って欲しいと思いますね。

小山:でも、それは農業がしっかり営まれていてこそ可能なわけです。アメリカやカナダと違い、日本では大勢で支え合わないと無理。田んぼを守るには水路も守らなくちゃならない。私のところでも2人で組んで水路の水番を交代でやっています。こうした努力なくして棚田は守れない。今、一番危機感を感じているのは、集落の崩壊ということです。お年寄りばかりで若い方もいない。水源や景観の保全といった意味からも大変な危機です。農村集落を維持していくということは一番大切な課題ではないでしょうか。


これまでワラジを作ってたオバアチャンなんて誰も見向きもしなかった。

福島:都市と農村交流のひとつの試みとして、最近、グリーンツーリズムが盛んになってきているようなのですが、飯山市では具体的にどんなことを?

小山:例えば、都会の小学校の6年生全員が1週間、農村で現場の体験をしながらいろんな授業をやったりして、たいへん注目を浴びています。横浜市の中学生、千葉県、武蔵野市、東京の子供会連合。子供達は、目の輝きがまったく違ってきます。大人の方達も田植えや稲刈り、わらじづくりや炭焼き体験。農水省はもちろん、文部省も応援することになりました。全国にこうした運動を広げてもらいたいですね。

ダニエル:川と同じですよ。ようやく最近、川が本来の遊び場として認められてきました。農地も農業という専門職の人しか入っちゃいけない土地だったけど、教育や文化的なもののベースとして認められつつある。素晴らしい傾向だなと思います。

アン:でも、都会の人って農村に来るのはいいんだけど、カメラの世界で終わっちゃう。「アラ、鶏だわ。ヒロミちゃん、早く早く、ここに立って。ホラ、卵を持って。触っちゃダメ!服が汚れるでしょ(笑)」。1日、2日で帰る人達はそこで終わっちゃうんです。せめて1週間か2週間いて欲しい。そうすると親も子もまったく変わってきます。子供達はドロンコの天使。服の汚れなんかどうでもいい。あんなにヤンチャで、あんなに楽しそうな姿見たことない。それに、農家で食べる温かいご飯の美味しさ!そういうことを褒められると、今度は農家の人もやる気が沸いてくる。よーし、もっと美味しい米を作るぞって。

小山:これまでワラジを作ってたオバアチャンなんて誰も見向きもしなかった。その技を生かす場もなかった。それが80歳を過ぎて子供たちに教えられる。これは嬉しいですよ。


自分で作った美味しさを体験すると、こういう暮らしの方がハイカラに思えてくる。

福島:交流ということであれば、「地球人会議」も、食料、農業、農村の問題について都会の人を巻き込んだ議論の場を提供するためにつくられたということですね。

森田:農業、農村というのは、農業者や地元だけのものではなく、食料、環境をも含めた日本全体、世界全体の重要な問題であるという視点に立って、この地球人会議がスタートしました。今年で4年、46府県、会員数は約6万人。非常に大きい規模に育っています。

福島:しかし、国際情勢の中で日本の農業は非常に厳しい状況にある。この農業・農村の活性化という難しい問題に関して、どのような対応が必要になってくるのでしょうか。

川勝:都会人に農業をやれといってもいっぺんには無理。でも、グリーンツーリズムを通して農業や農村に触れる、そして住みたくなる。徐々に農業のまねごとを始める。私自身もまねごとをやっていますが、収穫の喜びも分かり始める。そして、自分で作って、その美味しさを体験すると、実はこういう暮らしの方がハイカラに思えてくる。いきなりプロの農家を養成するより、農村に住んで、農業の見習いから始めるほうがいいと思います。

ダニエル:私の周りには農家になりたくてもなれねえ人がいっぱいいるんですよ。でも農業やるにも土地が要る。土地は農家じゃねえと貸してくれねえ。グルグルたらい回し(笑)。

福島:最初始めようと思ったら専業農家からじゃないといけないそうですね。

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森田:5反(約150a)の土地が要ります。

ダニエル:アメリカでは簡単になれますよ。お金さえあれば。

アン:カナダではお金と教育。今、カナダでは農業やる人は大学を出なければできない。土壌や化学の勉強、哲学や経営学、農業は大変なことです。

小山:でも、農家参入への道はかなり開けてきました。研修制度もあります。しかし、飛び込んでもすぐには対応できない。技術を身につけるとか、お金を用意するとか条件整備をきちんとしないと失敗します。行政でもそのへんは慎重にしていかなくちゃならない。


昭和50年に「農村に住みたい」という人は9%。
それが平成7年の調査では52%。

福島:農村に住みたいという方は実際に増えてきていますよね。

森田:国土庁のデータでは、昭和50年に「農村に住みたい」という人は9%。それが平成7年の調査では52%と、非常に大きな変化となっています。

福島:何か新しい時代を感じますね。農水省でもエコミュージアムという計画が進んでいると聞いていますが。

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森田:フランスのエコミュージアムという活動を参考に、美しい田園風景をつくりあげていこうという事業です。エコは自然ということもあるのですが、エコール、つまり学校、農業体験や農村での学習を通して、エコノミーという経済活性化につなげるというという総合的な活動を目指しています。古い民家や春の小川といったような石積みの水路、古い堰、そういった歴史的、文化的な地域資源を核としながら新しい農村のあり方を総合的に探っていこうというものです。

福島:日本の田園をどう守り、どう活性化させてゆくか、豊かさを実感できる将来像をどの方向に求めていけばいいのか、最後にまとめのコメントをいただきたいと思います。

川勝:明治以降、日本は富国強兵ということで工業化社会への道を歩んできましたが、これからはモノづくりというより、この国富をどう使うかということが初めて課題となっているわけです。これまでの道路や新幹線というのは生産するためだったんですが、これからは生活をエンジョイするためにどうつくるか。日本の高い水準を誇る工業技術を、どう生活に生かしていくか。そこで、日本固有の風土と歴史を持ったところ、つまり多自然居住地域こそがこれからの時代のフロンティアであるという共通認識が行政でも持たれるようになってきた。簡単に住みかえられる家、あるいは海や山の家、いくつかの家が持てる。そういう住まい方を模索する時代に入ってきた。したがって、これからの日本は多中心国家、つまり本格的な地方の時代を迎えることになります。そうしたときに、地域の自立ということは何にもまして重要な課題となる。福沢諭吉は「一身独立して一国独立する」と言っています。自分の地域で国を担う、そういう独立の気概が最も求められるのではないでしょうか。地域づくりにおける最大のポイントは、人を引きつける力を持てるかどうか。ハードパワーからソフトパワーの時代になっているという気がいたしております。


自分達の地域を自分達が知って、そこに誇りを持ってお客様をお迎えする。

アン:外交の世界では橋渡しというのはとても重要な役割です。田んぼをはじめ農村を見ると、自然生態系と都市の橋渡しを本当によくこなしていると思います。その役割がきちんと果たせなくなったときにエコロジーも崩れる。もっと沢山の方々が農村のファンになって欲しい。そのための第一歩として、農村に行き、ナマの農村を肌で味わう。できることから始めてみるのがいいんじゃないかと思いますね。

小山:自分達の地域を自分達が知って、そこに誇りを持ってお客様をお迎えする。そうした姿勢がなければ、来てくださいとは言えないはずです。「兎追いしかの山」「おぼろ月夜」「菜の花畑」といった歌は私どもの地域から出た歌です。私どももこれを守っていく責任がある。地球の資源は有限です。私達は、右肩上がりの生活ではなく、何を求めるのか考えなくてはならない。そういう役割を地球人会議は果たすんじゃないかと思っております。

ダニエル:農村に住みたいという人が50%以上いる。農業やりたくねえって人も農村に住みたい。その人達の受け入れ方もやっぱ考えねばなんねえ。例えば、在宅勤務が簡単にできるようにインターネットとかビデオ電話とか、もうちょっと通話料を安くしてくれるとか。航空運賃も安くしてもらいたい。やっぱ農村の良さは農業だけではなくて、日本の伝統的文化とか、きれいな山や海の景色にあこがれてやってくるんであって、是非そういう人達も受け入れられるようにお願えしてェでござります(笑)。

福島:最後に行政の立場から、森田さん。

森田:皆さんのお話しに感激しております。こういった考え方が国民の皆さん一人一人に根づいていくことを願ってやみません。ありがとうございました。

福島:いかに日本の美しい自然環境が大切か、そして田園空間が大きな財産であるかということを、今日あらためて再認識したわけですけれども、そのために何をすべきか、それぞれの立場で考えて行動を起こす時期に来ているのじゃないかと思います。今日のフォーラムが、そうした国づくりに向けての小さな一歩にでもなれば嬉しく思います。会場の皆さん、どうもありがとうございました。

※文中に掲載した写真は、日本全国の農村地域の風景です。


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