ふるさと水と土基金全国研修会  新・田舎人15号

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新・田舎人

第4回ふるさと水と土基金全国研修会 講演(要約)
いちばんの環境問題は“中山間地域”です。

岡島成行さん(読売新聞東京本社編集局解説部次長)

平成9年11月11日から3日間にわたって「第4回ふるさと水と土基金全国研修会」が開かれました。今号はこの研修会で講演いただいた講師の中から、読売新聞東京本社編集局解説部次長の岡島成行さんの講演の一部をご紹介します。

岡島成行氏 岡島成行さん
神奈川県横浜市生まれ。上智大学卒業後、昭和44年読売新聞社入社。社会部記者を経て、現在解説部次長。日本山岳会・自然保護委員、日本野鳥の会評議員、日本環境ジャーナリストの会前会長。63年には世界的視野にたった環境、汚染問題の報道が認められ、国連グローバル500賞を受賞。著書に「上毛野国」「みんなが頂上にいた」「アメリカの環境保護運動」「第3の資源」(共著)がある。

いまかなり悪い状況にある。

私は新聞記者を28年ほど勤め、そのなかで20年ほど環境問題を担当しています。そこで環境問題という観点から、日本の国内政策のうえで何がいちばん大事なのか、をお話したいと思います。

いま、ゴミの問題やダイオキシンなどいろいろな環境問題が騒がれていますが、強いて一つあげるとすると、私は“中山間地域”(注1)の問題が重要だと思っております。日本の中山間地域の活性化と、それにともなう森林および自然資源の維持、管理、運営ということですね。この部分をきちんとしておかないと将来に禍根を残す。どうしてかといえば、中山間地域はいまかなり悪い状況にあるからです。これを放置しておくと国土が保全できなくなるのではないかと思っています。

森林の現状を申しますと、20年ぐらい前から、植えたあとの間伐や枝打ちができなくなりつつあります。そういう状況を放置しておけば、当然のこととして山は荒れてきます。人工林が崩れて、自然のままの森へ復元するまでには100年といった時間がかかりますが、その間、下流には人が住んでいますから、山が荒れている100年間はたいへんな状況になります。ですから、良い悪いは別にして人工林をここまで増やしている以上、手数をかけ育てなければなりません。それができなくて森林はひじょうに困った状況におかれています。

また、森林の荒廃と同時に進行しているのが過疎です。国土庁の統計でも、65歳以上の方々が過疎地域に圧倒的に多く、逆に若者は非常に少ないということになっています。あと10年もすれば中山間地域の農業も林業も担い手がいなくなってしまう。もう働く人がいませんよ、という日がくるのは目にみえている。

そういう状況をふまえて環境問題の面から国土保全を考えてみますと、日本の国内環境政策の最重要課題は森林政策と過疎問題、つまり中山間地域の問題だと思えるのです。日本の森、日本の過疎地域にがんばってもらわなければ、ほんとうに10年20年でたいへんな状況が出てきます。

(注1)中山間地域とは一般的に~(1)日本の国土を都市的地域・平地農業地域・中間農業地域・山間農業地域に4区分したうちの中間農業地域と山間農業地域を合わせた地域(2)標高500m~1000mの間の地域(3)山村振興法、過疎法、半島法、離島法、特定農山法の5法のいづれかの指定を受けている地域~をさし、日本国土の約70%、農業シェアの約40%、総人口の15%を占めています。


日本のバランスはひじょうに悪い。

私はいま東京に住んでおりますが、東京の会社に通っているサラリーマンとその家族は3千万人近くになります。全人口1億2千万人の1/4の人が、東京湾の端っこにへばりついているわけです。ですから地価が高いなどいろいろな問題がでてくる。その一方、日本の面積全体の48%ぐらいが過疎地域で、全人口の6.2%ぐらいの人しか住んでいないということですから、片や猛烈な過密、片や大変な過疎です。日本の国のバランスはひじょうに悪い。これはどう考えてもおかしいわけです。

過疎はどんどん進展する。ある一定のところまでいってしまったら、もう一度立て直すのはたいへんです。棚田の問題もそうでしょう。田んぼは一端つぶしてしまったら、もう一度つくり直すのにかなりの時間と労力、費用がかかります。同じように昔からある山の施設や人的資源は一端途切れてしまうと、それを復活させるためには猛烈な時間とお金がかかります。ですから、過疎地域の問題は日本国土全体の浮沈にかかわる問題だと思っています。

過疎問題を解決するためには二つの輪、両輪が必要です。一つの輪は地元での人材の育成です。地元でがんばる人材を育てる、もしくは人材が帰ってくるよう取り組む、そのための努力です。そしてもう一つの輪は、国全体として過疎と過密を是正する仕組みをつくること。現在の過疎というのはそれぞれ村や町の単位でガンバッテも、とうてい追いつける状況にはないと思います。いくら良い人材をもってしても、全国の仕組みが変わらなければ、結局は討ち死にするしかない。仕組みを根本的に変えないと過疎は直らないと思います。この両輪を早急に動かすことが重要ではないでしょうか。


誇りをもっているかどうか・・・。

地元で人材を育てるという意味で、私はお父さんやお母さんが自分の住んでいる村や町に対して、あるいは自分の仕事、農業や林業などの仕事に対して誇りをもっているかどうか、が大きいと思います。自信をもって「お前の育った村はいいところだから、ぜひここにいなさい」といえる方が何人いらっしゃるかということです。

毎晩とはいわないけれども、食事をしながら「こんなところにいてもしょうがない。お前たちは東京の学校を出て、しっかり偉くなんなさい」といっているようでは・・・(笑)。昔ならともかく、いまのように子どもが少ない時代に、そんなことをいっていたら村や町に子どもはいなくなってしまう。ですから、お父さんやお母さんがわが人生を振り返って、この村、町に生まれ育って良かったと思えなければ、当然その気持ちが子どもたちへ伝わることになります。

ある時期から日本は、お金をうんと儲けた人の方が得だという考え方が強くなってきました。現金収入でいえば東京のサラリーマンの方が多いわけです。むろん人生全体の生き方となればまた別のことですが、現状ではどうしてもお金の数が先行する。それに、地域から人がどんどん出ていってしまう。こうした現実があって、過疎地域の方々はかなり弱気になっている。しかし繰り返しますが、いちばん大きいのは、過疎地に住む親の方々が子どもたちに対して、「ここはいい村だ」と自信をもっていえることなのです。

その点では、テレビや新聞やメディアも反省しなければなりません。どこの村や町でも、東京を舞台としたトレンディドラマをみていて、隣の県のことは知らないのに、東京のことはよく知っている。東京の価値観が日本全国をおおっています。そういうメディアのあり方、報道の仕方もかなり考えていかないと。


国の仕組みとして考える時期です。

さて過疎地ががんばる一方でそこに人が住める状況をつくらなければなりません。これは国の政策の話になります。現実問題として、東京の大学を出て過疎地域に住むのはたいへん難しい。そこの出身者で農業を継ぐというならいいのでしょうが、新しく農業をはじめるにはかなり難しい問題もある。やはり過疎地域には不利な条件があります。そこに人が住むようにするには、国策としてその不利な条件をなくすしかほかに手はないのではないでしょうか。

たとえばカナダです。カナダの北の西準州(ノースウエストテリトリーズ)は北の方ですから人があまりいません。国としては何としてもそちらに住んでほしいとおもっているわけです。そこで、いろいろな特典を出す。税の免除とか、そこの子どもたちは国立大学の授業料を免除するとか。そういう特典を与えて、過疎地へ人が行ける仕組みをつくらなければいけない。

過疎地に住む場合、皆さんが心配するのは、教育と医療の問題が大きいのではないかと思います。

たとえば教育なども、小学校ぐらいのときは自然豊なところでノビノビ育った方がいいと、誰もが思っているはずです。ところが子どもが中学や高校へいくときになると、悩みが出てくる。とすれば、いくつかの過疎地が集まって下の町に寄宿舎をつくり、町の学校へ通わせるということを考えてみてもいい。親の負担は多少あるにしても、基本的に寄宿舎は無料という制度をつくる。

医療では、かなりの過疎地でも1~2時間で到着できる道路網がありますから、拠点医療整備をしっかりやる。医者が少なかったら、過疎地へ赴任する人には高い給料を払うようにする。

これらはたとえ話ですが、過疎地の不利な条件をどうやってなくしてゆくのか、国の仕組みとして考える時期です。ただうっかり道路だけをつくると、その道路でみんなが下へ降りてしまう(笑)。抽象的になりますが、おそらくいまの国家予算のハード部分のかなりを、寄宿費用などソフトへ回してゆくことが必要ではないかと思います。


環境保全、国土保全のための田んぼ。

自由競争の結果、この20年間で過疎はどんどん進展したわけですから、やはり何らかの形で国全体のことを考えて、歯止めをかける効率のいい仕組みを考えなければならないと思います。

棚田についても、私は同じように考えています。棚田は国土保全のためにはあったほうがいい。田んぼは全部そうですね。田んぼが溜めている水はたいへんな量であって、かなり大きな洪水調節機能です。また、食糧危機がきたらどうするんだという気持ちもあります。中国は去年から穀物の輸入に入っています。あと10年ほどすれば簡単に米があまったなんていう時代ではなくなる。
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しかし、いまの経済状態からすると減反しないとやっていけない。ですが、やはり将来の、いまの皆さんの子どもたちが農業を継ぐ時代のことまで考えて、ある程度貯金のように将来へとっておく部分があってもいいと思うのです。

たとえばヨーロッパのある国では、石油がうんとつかっているところへ炭素税をかけていますね。この税金は環境改善につかわれますが、そのうちの一部が凍結された貯金になっているんです。国債発行の反対ですね。数十年後の子どもたちは、エネルギーのために新しい技術を開発しなければならなくなるだろう。そのために必要な膨大な開発費の一端を、自分たちの税金から貯金しておこうというわけです。

同じように日本の国土政策でも、我々の70兆、80兆といわれる税金のなかから、国土保全のために残しておくお金は必要だと思います。あるいは国の政策として、農業保全のためではなく、環境保全、国土保全のために田んぼをとっておこうという予算の付き方があってもいい。これは言葉を換えれば、ヨーロッパなどでは“所得補償(デカップリング)”という言い方をされています。

いずれにせよ経済的な観点からだけではなく、環境保全、国土保全の面から棚田や田んぼ、農業をみるということです。


都市部の人たちを味方につけて。

いままでの話をまとめますと、中山間地域を活性化するためには、まず中山間地域の方々、農業の方々に国土保全のための第一人者であるという自覚と自信をもっていただくこと、そして定住できる条件を国として整えることが大事だということです。日本の国における国内政策の森林・中山間地域対策、それに農業が重なってくると思いますが、その対策に本格的に国が乗り出す時期ではないか、新しい政策が必要であると申しあげました。

さらに、もう一つ申しあげたいのは、中山間地域の問題はその地域だけで処理しようとしても難しい。都市部の、中山間地域の方を熱い目で見ている人たちを味方につけて一緒にやる作業が必要ではないかということです。

都会の中には機会があればしょっちゅう山にいきたい人とか、場合によったら別荘をもちたいとか、年をとったら田舎に住みたいとおもっている層はものすごく多いのです。ですから自然が好きな人、自然に憧れている人、そういう人たちと何とか連携をもてるようにすることです。

登山とかハイキング、田舎暮らしの雑誌など、アウトドア系雑誌の発行部数は合わせて200万部以上になります。少なくとも200万人ぐらいは、条件さえ整えば過疎地域の方がいいかなと思っているかもしれない。そういう層と連携をもつ。

過疎地へどうしたら人が定住するかという問題は、何も首都圏にいえる人間すべてに来てほしいということではないのです。千人に一人が移ってくれるだけで過疎はかなり是正できます。千人に一人がいける状況さえつくればいいのですから、決して不可能ではないと思います。


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