ふるさと水と土基金全国研修会  新・田舎人14号

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新・田舎人

第4回ふるさと水と土基金全国研修会 講演(要約)
21世紀の主役は、土とともに生きてきた人たち。

アン・マクドナルドさん(エッセイスト)

平成9年11月11日から3日間にわたって「第4回ふるさと水と土基金全国研修会」が開かれました。今号はこの研修会で講演いただいた講師の中から、日本の農業と農村に詳しいエッセイストのアン・マクドナルドさんの講演の一部をご紹介します。

写真:アン・マクドナルドさん アン・マクドナルドさん
エッセイスト。カナダ出身。カナダの高校・大学時代に日本へ留学経験をもち、卒業後日本での農村暮らしを経て、日本国内及び海外の農山漁村を体験取材して歩く。

農業の重要さ、役割を無視してしまうと・・・

非常に乱暴に言えば、私は日本の農村に入って、二つの顔を見たように感じます。一つは、とてもたくましい顔です。何があってもめげない、転んでもすぐ立ち上がる。これには年齢があり、60歳以上の方の顔でした。もう一つの顔は、なぜか農業を語るとき暗くなる顔。とくに30代、40代の顔です。

なぜ若い農家の顔が暗くなるのか。農業を語るとシーンとなるのか。それは、仕事に対する誇りがないからだと感じました。日本の社会は農業の役割をきちんと評価してきませんでした。農業は汚い、つらい、大変・・・そういう評価しかなければ、農業をやりたくなくなるのも不思議ではありません。逆に、社会がしっかり農業を評価すれば、誇りが自然に内側からわいてきます。

農村が悪いと言っているのではありません。戦後、国をもう一度つくり直すためには社会全体に大変なエネルギーが必要で、日本は工業に力を入れました。しかしながら、国をささえている柱の一つが農業です。食べ物がなければ人間は生きていけません。その柱の重要さ、役割を無視してしまうとき、国はどうなってしまうのでしょう。心配です。本当に気になります。

しかし最近は、日本の社会もそれに気づいてきたのではないでしょうか。食糧生産の重要さ、それを支える農業者の役割が評価されるようになり、胸を張って「農業が大好き」という若者が増えてきた、という気がします。これは非常にいい傾向だと思います。


日本の将来は農村にあります。

東南アジア、北米、中南米、キューバ、この5年間あちらこちらを歩いてきましたが、大変な時代です。食糧不足がやってくるのは確かです。現在、世界の人口は約57億人で、毎年、7000万人ずつ増加していると言われています。恐ろしいことです。言い換えれば、1秒ごとに3人分の食糧をプラスして供給しなければなりません。そして、同じ割合で人口の増加を考えると、2025年までに現在の食糧生産率の2倍を最低限生産しなければなりません。

一方で、世界の総人口の2割が世界の食糧の8割を消費しています。つまり先進国の私たちが、世界の食糧のほとんどを食べているわけです。これもまた恐ろしいことです。それだけではありません。土壌の退化は毎年50万から70万ヘクタールと言われ、退化してしまった農地は、アメリカとメキシコを合わせた面積になります。水の問題もあります。すでに世界の34か国ほどが水不足に陥っています。

でも、明るい未来はあると信じています。都会を頼れば暗い将来ですが、農村に頼れば、いい将来があります。21世紀は、都会ではなく農村が重要な役割を果たさなければなりません。海外とのつながりでも大きな役割を担えるはずです。

カナダに比べたら日本の農村にはプロが数多くいると感じます。限られた面積の中で農業をやってきたから、どうやって付加価値をつければいいのか、という技術を身につけています。日本農業は技術、発想力でカナダより有利にあるといえるでしょう。

ある意味で農業はベンチャービジネスです。私はカナダと日本、あるいはアメリカの農家が、それぞれの力を合わせていけば、いろいろな可能性があると思います。対立ではなく協力態勢をとっていけば、農業は必ずもっと明るくなっていくと思います。

また、とくにアジアの中で日本の農業は重要です。失敗を含めて、彼等にない技術、知識、経験が日本の農業にはあります。それを生かせば、国内だけでなく、アジアや世界の舞台の上で本当に重要な役割が果たせるのではないでしょうか。

戦後の日本は成金王国だったと思います。農村を忘れていたと思います。でも、土とともに生きてきた人たちは21世紀の主役です。土とともに生きてきた人たちを無視すれば国は滅びます。幸いなことに、日本の農家はただ者ではないので、その役割を担える力があります。

20年後、50年後、日本の農業は明るくなっているはずです。日本の太陽は沈みはしません。21世紀に日本の農業と農村が、国内、世界レベルで担う役割は大きなものでしょうし、期待し、応援していきます。日本の将来は農村にあります。


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