ふるさとニューウェーブ 新・田舎人13号

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自然なホタルの乱舞をめざして
~秋田県東成瀬村~

秋田県のふるさと水と土指導員・佐々木克郎さんは、基金活動の一環としてゲンジボタルの研究、増殖と取り組んでいる。佐々木さんのねらいは「ホタルの増殖に加え、ホタルに代表される水と土、自然保護への意識の高まり」という。

豊かな自然に抱かれた村

一時期、強い農薬の散布や河川への家庭雑排水の流出、用水路のコンクリート護岸化などによって、めっきり姿を消してしまったホタル。とくに、光の大きさで夏の風物詩として人気の高かったゲンジボタルは、比較的きれいな水に生息することから、その数を激減した。
しかし最近、全国的に少しずつホタルが増えているという。この背景には、環境に対する日本人全体の意識変化と、それにともなう河川や水路などの水質浄化があげられるが、直接的なホタルのための水辺回復や保護といった地域活動も見逃せないだろう。ここ秋田県雄勝郡東成瀬村でも、ゲンジボタルの乱舞へ向けて地道な努力が続けられている。

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東成瀬村は、秋田市から東南へ約100km、東は奥羽山脈をはさんで岩手県、南は宮城県に接する県境にある。総面積の93%を山林原野が占め、中央部を成瀬川が流れるという自然豊かな村だ。村を構成する21の集落は、この成瀬川にそって散在する。栗駒国定公園栗駒山の登山口として知られ、最近では平成3年にオープンしたジュネス栗駒スキー場が若者たちの人気となっている。
主要な産業は農業。水稲、リンゴ、トマト、タバコなどを生産しているが、なかでも 桃太郎トマトは消費者から高い評価を受け、ほとんどが東京、横浜などの首都圏へ出荷されている。東成瀬村の激しい寒暖の差が、トマト本来のうま味を引き出すからだといわれる。
案内をしてくれた秋田県ふるさと水と土指導員・佐々木克郎さんは、わが村についてこう語ってくれた。
「水と緑と空気がこの村の財産です。とくに星空のキレイさといったら、全国でも指折りではないでしょうか。まぁそれだけ夜が暗く、田舎だということでもありますが(笑)。」

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ホタルが生息できる水路づくり

しかし、これほどの自然を誇る東成瀬村でも、昭和45年頃からホタルの姿を見かける機会は少なくなった。当時まだ教職にあった佐々木さんは「なんとかホタルを減らさないようにできないか」と、個人的に卵を幼虫へかえす試みを行ったこともあったと話す。
佐々木さんが本格的にホタルの復活と取り組みはじめたのは平成7年から。ホタルが東成瀬村の「村の虫」であったこと、同村東成瀬地区の不動の滝の周辺が「ふるさと・水と土保全モデル事業」で整備されることになったのをきっかけとしている。
ちなみに不動の滝は、8月に開催される村の恒例行事「仙人修業」の滝打たれの場所として内外に親しまれている。これは、一般からの参加者を募り、滝打たれ、座禅、 断食、わらじづくりなどと取り組む行事で、県外はいうにおよばず、遠くは兵庫県や外国からの参加もあるという。
同モデル事業は、この不動の滝までの小貫山堰用水路を整備するもので、地元の要望をもとに、ホタルが生息しやすいよう自然石や杭によって一部水の流れを緩やかにする工夫がなされている。加えて関連事業で、親水公園、遊歩道、トイレ、ゲンジボタル増殖実験施設などの整備が行われ、周辺は「不動の滝ホタルの里公園」として今年完成した。

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こうしたハードの整備と歩調を合わせ、佐々木さんの活動も、村内のゲンジボタルの発生生息状況の調査、増殖実験の開始(成虫捕獲・室内採卵・ふ化・短期飼育)、 HSPACE="0" VSPACE="0">パンフレットの作成、小学生を対象とした増殖実験の見学会の開催、村の広報誌によるキャンペーンなど着実に進められて きた。
「かつて教職にあったといっても、ホタルに関してはまったくの素人。どこに生息しているのやら、何を食べるのやら、わからないことばかり。一から自分で勉強するしかありませんでした。それにホタルの飼育は微妙で、増殖実験も試行錯誤の毎日です。」
それでも、平成8年から幼虫の放流をはじめ、今年は300頭を放流した。また、自然発生したホタルも一時期の少なさに比べれば増えているという。

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ホタルを通して自然への関心を

しかし、佐々木さんの望みはホタルの人工的な増殖ではない。
「こういうホタルの飼育自体、実は不自然なことなんです。ほんとうは飼育ではなく、自然の条件を整えて発生しやすくしてやったり、ホタルが自然に発生しているところを保護したりすることが大切です。こうした人工増殖は、数が減ったゲンジボタルをこれ以上減らさないための一時的な措置と考えたい。」

また、村人の自然や環境に対する関心を高めていくことが、自然増殖へのもっとも近道だと話す。
「飼育活動や飼育への理解を得る活動はひとつのきっかけ、手段だと思うのです。ホタルを通して地域の自然、環境を大切にする気持ちへつながっていくことが一番の目的です。実際、それは実を結んできています。毎年行っている発生生息状況の調査にしても、村人からの情報が多く寄せられるようになってきたし、子どもたちの理解も進んできました。村全体の関心が高まっていると思います。」

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しかし、困った問題も起きてきた。整備された公園にゴミを捨てていく心ない人の存在だ。ゴミは環境を汚すばかりか、その環境への無関心さがホタルの自然な増殖を妨げる背景となっていく。しかも、公園のホタルを捕まえていく人も出てきているという。主に村外の人たちとの話だが、ホタルは自然の中で見るのが風情というもの。こうした行為は厳に慎みたい。
今年、佐々木さんはふるさと水と土基金活動として、村内のホタルマップを作成するとともに、シーズン以外でもホタルの勉強ができる教材用のスライドを作成する予定だ。また、施設を訪れる人は延べ300人以上を見込んでいる。ホタルへの関心はますます高まっていくにちがいない。
東成瀬村に自然のホタルが乱舞する日。それは自然や環境に対する人の心も持ち方にかかわってくるだろう。


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