新・田舎人13号

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新・田舎人

伝承芸能には地域住民の心がある

鈴木/農村がほしいのは人。機会もある、土地もあるが、かんじんの人がいないんですよ。そしたら、人を戻す対策を考えるしかないでしょう。
そこで村おこし町おこしという問題が出てくるわけですが、行政の方々はどうしても道路、建物、橋などを考えがちです。それはそれで十分効果があるのですが、道路なんてのはその村や町だけのものではない。やはりその村、町の固有のものといったら、住民が長い間エネルギーを費やしてきた伝承芸能なんですね。そこには地域住民の心があります。
ところが日本中どこへいっても過疎の状態におかれた農村には、あきらめが満ちあふれている。じゃあどうするのか。心を奮い起こすには、やはり心を扱う文化からやるしかないのです。私が復元をというと熊本でも「先生、そぎゃんこつばいいよんなはるばってんが・・・」とくる。つらいのはわかっています。かつて何十人かでやっていた伝承芸能をその何分の一、何十分の一の人数で昔どおりに復元させようとするわけだから。
村おこし町おこしで一番時間がかかり大切なのは、相手がヤル気になるまでとことん説得すること。辛抱して辛抱して、必ずできるんだというイメージを貫くこと。心を信じることですね。その地域の人の。

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伝承芸能の復活が人を呼び戻すことにつながるのでしょうか?

鈴木/実際、あるところで1年半かけて神楽の復元を訴えたら、熊本市に住んでいる若者たちが毎晩村へ帰って伝承芸能の練習をするようになった。それは先祖代々の土地への愛着なんですね。そういう実例は決して少なくない。悲観したら村おこし町おこしはできません。

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農山漁村がもつべき3人の友だち

そろそろ最後となりますが、農業や農村について何かおっしゃりたいことがあれば。

鈴木/日本は、台風が真上を通過する地球上でも珍しい位置にある国です。だから昨日まで築きあげてきたものが、台風一過水泡に帰してしまうこともある。そこで日本人の幸福観は、今日が幸福であれば良いこと だった。戦後は、そこに物とお金が入ってきた。その点遊牧民は、あれだけの人間と動物を引きずって次へ向かいますから、そこに水と草がなければいけない。つまり未来への希望がないといけない。明日の幸福を追求するというのが西欧の人達の幸福観なんですね。
ところが、東西の冷戦が終わって、おぼろげながら未来の自分を少し描けるようになってきました。人間が月に行く、火星に行くのもけっして夢でない時代になってきたわけです。さらに、信じ続ければいつかはそうなっていく社会になってきた、未来志向になってきたといえます。だから日本人の今日志向的な幸福観も大きく変化してゆく時代じゃないでしょうか。
この半世紀の間、私たち日本人は何をつくったかと考えたとき、何もつくらなかったような気がします。仮に私が歴史学者だったら、20世紀後半の日本の歴史は空白にしておきますね。理解しようがない歴史ですよ。ですが、ここへきてやっと日本人の幸福観が未来志向で何かを創造する考えに変わろうとしている。
だから農業に関しても、もっと未来への洞察力が必要なのではないでしょうか。
いま世界中で「人間が社会生活を送るうえで必要な3人の友達がある」といわれています。1人目は、自分が何かをやろうとする"勇気"。2人目は自分はこの問題をこう考えるという"判断"。他人依存ではなく、あるいは何かまちがったとき他人に責任を転嫁するのではなく、自分の責任で自分で考えるということです。3人目は、近い将来の自分を家庭を農業を農村を、川を水を土をどのようにしておいたらいいかという見通し、"洞察"です。
私はいま、この勇気と判断と洞察という3人の友だちをもっとも持たなければならないのが農山漁村の人たちだと思います。
99の不可能を言い訳にするより、1つの可能性を未来へのきっかけにしたい。お金の問題、人の問題、いろんな問題が襲いかかってきますよ。しかし、やればできるというイメージと希望は捨てないこと。それが未来志向です。


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