ふるさとニューウェーブ 新・田舎人12号

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大学生の"ふるさとサポーター"
~神戸大学農学部学生グループ~

「兵庫県中山間ふるさと・水と土保全対策委員会*」は、基金活動の一環として神戸大学農学部有志学生からなる「ふるさと・水と土サポート隊」を同県温泉町へ派遣した。労力の提供を受けた地元の喜びはもちろんのこと、学生たちにとっても貴重な現地体験となり、得るところは大きかったようだ。

※「ふるさと水と土基金」は、水と土を中心とした地域資源を守り、育んでいく地域住民の活動を支援する目的で自治体ごとに設けられ、「兵庫県中山間ふるさと・水と土保全対策委員会」は兵庫県の基金運用益を活用した地域住民活動を側面から支援しています。


農業を知らない農学部学生?

県下に中山間地域を多く持つ兵庫県は、積極的な「ふるさと水と土基金」活動をくり広げている。その一つに、「ふるさと・水と土サポート隊」がある。
ことの発端は、年4回開かれている「兵庫県中山間ふるさと・水と土保全対策委員会」運営部会での討議。「ふるさとを守ってゆくためには、都民住民、とくに若者の理解がかかせない」との意見がだされ、草刈りやため池の清掃など地元への労力提供という現地体験をとおして、都民住民がふるさとに果たす役割を考える機会にしたらどうか、とサポート隊の企画がもちあがった。
これには、委員を務める神戸大学農学部教授の保田茂先生も大賛成。先生は、学生が実際の農村を体験できる絶好の機会である、と教育的効果も合わせて期待する。
「最近は農学部の学生といっても、多くが都市部の出身です。しかも大学(農学部)では、研究用に管理された農場での実習はありますが、現実の農業の厳しさを知るプログラムはありません。ほとんどの学生が、農業や農村を知らずに卒業してゆく。この点、何かできることはないか前々から考えていましたから」。
そこで保田ゼミ(食料環境経済学研究室)を中心に学生、院生たちに呼びかけ、サポート隊への参加を募った。


学生達の熱心さに地元も感激

2泊3日の宿泊・食事などの実費が自己負担とあって、イマドキの学生達が興味を示すか心配されたが、結果は上々。男子学生12名、女子学生7名の総勢19名の学生がサポート隊に名乗りをあげた。参加者はバスにのりこみ、兵庫県の北西、鳥取県との県境に位置する兵庫県美方郡温泉町の石橋地区へ向かった。

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温泉町は、その名の通り摂氏98度という高温の湯で有名な湯村温泉を中心部にもち、石橋地区はそこから車で15分。標高1千m級の高原を背にした風光明媚な農村だが、典型的な過疎地域。主産 業の農業は高齢者が担い、後継者不足は深刻だ。平成8年度からは「ふるさと・水と土保全モデル事業」により、湧水を水源とする石橋池周辺の公園整備が進められ、これを契機に地域活性化への機運が高まっている。
午後現地入りしたサポート隊は、役場職員の案内で町内のほ場整備地区や農業施設を見学、翌日は朝9時から地域住民といっしょに石橋池や水路などの清掃や周辺の草刈りにあたり、汗を流した。なかには鎌をにぎったことがないという学生もいて、ハラハラさせられる場面もあったが、その熱心さには地元の住民も大感激。「わざわざ神戸から、孫のような子供たちが応 援に来てくれた」と、涙を流して喜ぶおばあちゃんの姿も見受けられた。

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3日目はきれいになった石橋池での交流。そうめん流しに舌鼓をうち、石橋地区が地域おこしのため開催している「たらい漕ぎ競争」に参加。山間の里は一日中老若男女の喚声でわいた。また、こうしたサポート隊の活躍は、読売新聞をはじめ三つの新聞で取り上げられ、「基金」活動を広くアピールした。

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高齢者の姿に心を揺さぶられ

後日、学生達はサポート隊として感想や意見などをまとめたが、それを大別すると次の二つとなる。
まず、"楽しかった"という意見。都市部の暮らしや学生生活では味わえない体験ができたことに加え、「とくに地元住民の温かい気持ちがうれしかった」とする感想が多く、田舎の人情や温かさに肌でふれたことは大きな収穫となったようだ。"自然の厳しさと中山間地農業の諸問題を目のあたりにした"ことも感想として多かった。大規模農業が難しい中山間地域の田畑、耕作放棄の目立つ棚田、高齢化の進む集落・・・。
なかでも地域住民と共同で行った草刈り時の印象が多くあげられ、「背丈をはるかに越える雑草と、それに立ち向かう高齢 者の姿には心が揺さぶられた」という。さらに石橋池周辺の公園整備について、整備後の維持・管理の主役を高齢者が担わなければならない現状を心配する声も聞かれた。

学生たちのこうした体験と実感こそがこれからの農学部、これからの農業につながると保田先生は話す。
「自然や中山間地域の厳しさ、田舎の人情など、農学部の学生は"現場との共感"を大切にしてほしい。この子たちが農業のことを考

えてくれなければ、考えてくれる人はいないのですから」。先生は学生たちのふるさとサポートを今後もできるかぎり続けたいという。
ある学生がいった、「毎年、全国で農学部出身者が何千人といるのに、みんなどこへ行ってしまうのでしょう?」。兵庫県のサポート隊は、学生を含む都市住民と農村住民との共同行動をとおして、教育や交流のあり方について都市と農村双方の住民に考える機会を与えている。
今年も6月上旬には、学生20名のサポート隊が温泉町へ向かう。

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