新・田舎人12号

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新・田舎人

音楽の基本は"感じる心"

お二人は海外の農村もよくご存じだと思いますが、日本と海外を比べて何かちがいはありますか?

ザイラー/日本の農村、ドイツの農村、オーストリアの農村、住んでいる人はみんな似ています。お米とか麦とかジャガイモとか、つくるものはちがいますが、農家が考えることはまず作物のこと。だから関心はその人が何をつくるかということです。
都会のようにどこの国の人かなんてあまりきにしない。同じように野菜をつくったり、田んぼをやる人として接してくれます。
それに農家は実直ですね。商売の人だったら、昨日より今日、今日より明日、もっと儲けようとするでしょうが、農家は1年間努力して少し作物が増えたらそれでウレシイ、満足。2倍、3倍儲けようなんて望まない。うまく日本語にならないけど、そういうところはどの国の農村でも、農家でも似ていますし、そういう考え方は好きですね。

音楽という面で、農村での暮らしが何か影響を与えていますか?

カズコ/ 私たちはコンピュータの電子音楽じゃないから、やっぱり自然とひじょうに結びつきがありますよね。バッハとかベートーベンとか、シューベルトとか、そういう200年前の人たちも、鳥の声を聴いたり、田園をみたりして音楽をつくりだしました。音楽の基本は感じる心。そのためには自然にふれたり、大地と接したりすることがとても大切じゃないかしら。

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コンサートは座布団に座って

今日は"かやぶき音楽堂"でコンサートがありましたが、ほとんどの人が駅(胡麻駅)から田んぼの中の農道を歩いておみえでした、15分ぐらいかかるでしょうか。みなさん楽しそうで、農村風景をバックに写真を撮ったり、野の花をみたり。早めにきて、散歩を楽しむ方も多かったですね。

カズコ/ 今日のコンサートは、大手カード会社がスポンサーでその関係のお客様でしたが、一般向けには初夏だけで9回 「かやぶきコンサート」を開いています。トータルで3千人ほどの方がいらっしゃいます。はじめた頃は。私たちもこんなに多くの人たちにきいていただけるとは思ってもみなかった。
これも、クラシックに興味があるというだけでなく、みなさんが自然や農村を心のどこかで求めていらっしゃるからじゃないかと思います。
山があって田んぼがあって、四季の移り変わりがある。そういうものを求めている方はたくさんいらっしゃいます。

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ところで、この音楽堂はお寺を移築されたとききましたが、農村風景に合うし、中も天井まで3層の観客席があり、座布団でコンサートが楽しめる素敵なつくりですね。

ザイラー/ 音楽堂は、もとは福井の禅寺で、2百年ほど前のもの。こういう建物は2度と建てることはできない。それを壊すというのでモッタイナイと思い、譲りうけました。
カズコ/ みなさんは「これはイイ」とおっしゃいますが、はじめてみたときは、屋根も壊れているし中も暗くて、「こんな汚いものを...」と思いましたね(笑)。主人には一目で良さがわかったようですけれど。
ザイラー/ 古いものにはそれなりのすばらしい価値があります。壊すのは簡単ですが、もう一度つくることはできません。200年も前の建物を大事にするのは当たり前のことで、そう思わないほうがオカシイね。

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ちょっと人間性をふくらませたら...

これも私の先入観でしょうが、お寺をクラシックの音楽堂にするという発想はなかなか浮かんでこない。ふつう クラシックコンサートというのは、都会のコンサートホールでネクタイ姿の正装で(笑)。

ザイラー/ 日本人はへんなクセがついてしまった(笑)。確かにドイツでもオペラなどはそうですが、もともとオペラは お金持ちが応援していたから、その風習が残っているだけ。そういう風習も今では少なくなってきた。
日本人はそのマネをしているだけ。切符を買わされ仕方なくいく(笑)。その上ネクタイ姿で、何時間も じっとしていなければならない。これじゃファンがだんだん減ってくる。ネクタイと音楽は、もともと関係ないんです。
それに欧州では、今週はチェリストのうちでやる、来週はビオラのうちでやるというように室内楽を家庭でやることも多い、 楽しみでね。
奥さんがサンドイッチをつくって、演奏を楽しみ、終わったらブドウ酒を飲んでワイワイガヤガヤ(笑)。音楽は楽しむもの。だからこの音楽堂はネクタイがなくてもかまわないし、座るのは座布団。
日本人は座布団になれているでしょ。
好きなようにリラックスして楽しんでもらいたい、それが音楽ね。

お話をうかがっていると、ご夫妻にとって田んぼもお友だちも、コンサートも、アットホームで自然な広がりであったように思えますが。

ザイラー/ そうですね。ちょっと人間性をふくらませたら田んぼになった、友だちが多くなった、コンサートになった。日本語でいえば、それが豊かさじゃないでしょうか。

夜も更けてきましたが、最後に何かおっしゃりたいことは?

ザイラー/ 子どもたちにもっともっと自然や土にふれてほしいと思います。1年に1回でいいから山に木を植える、田植えや稲刈りを行う。
ルイヴィトンのバッグをもって修学旅行へいくのじゃなく(笑)。人生の中でいちばん多感な時期を土や水や草や風にふれて過ごしてほしい。
カズコ/ 田んぼに一度足を踏みいれたら、それが体験、経験となって必ず自分の中で生きていくと思うんです。
今年は京都の西陣小学校の生徒さんがうちの田んぼにきますが、そういうチャンスを大人がつくってあげることが大切じゃないでしょうか。

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